夜の十一時を少し過ぎたころ。
最寄りのコンビニで飲み物を買い、アパートへ帰る道を歩いていた。街灯は少なく、夜の風はまだ少し夏の湿気を残している。
普段ならまっすぐ大通りを歩くのだが、その日はなんとなく気まぐれで、公園の脇を抜ける近道を選んだ。
小さな児童公園。昼間は子供たちで賑わうが、夜になるとひっそりと静まり返る。砂場や滑り台は闇の中に溶けて、街灯の下でわずかに光っているのは、二つ並んだブランコだけだった。
そのうちの片方が――ギィ……ギィ……と、かすかな音を立てながら揺れている。
「風かな」
そう思った。だが、風はほとんど吹いていない。もう片方のブランコはピタリと止まったままだ。
足を止め、少しだけ眺める。
鎖がきしむ音は耳に嫌でも届く。街灯の下で、誰かが乗っているようには見えないのに、ブランコは一定のリズムで前後に揺れていた。
「……気のせいだろ」
そう自分に言い聞かせて、歩き出す。
だがその時、ふと耳に入った。
――笑い声。
ブランコのそばから、小さな子供の笑うような声がした。
背筋が冷たくなる。振り返る勇気は出なかった。歩く速度を速め、公園を抜ける。
アパートに戻った時には汗で背中が湿っていた。
「いやいや、ただの空耳だ。子供なんているわけがない」
独り言のように呟きながら部屋に入り、買ってきた飲み物を冷蔵庫に放り込む。
その時、ふと気づいた。
コンビニの袋の中に、買った覚えのないものが入っていた。
――子供用の小さな紙パックジュース。
