クリスマスイブの夜は、街が少しだけ嘘をつく。
本当は寒くて、足先は感覚がなくなるほど冷たいのに、
イルミネーションの光がそれを誤魔化してくれる。
駅前の大きなツリーの前で、人々は写真を撮り、
誰かの肩に寄り添い、
あるいは誰にも寄り添わずに、立ち止まる。
彼女も、そのひとりだった。
仕事帰りのコートのまま、紙袋をひとつ抱えて、
ツリーの少し外側――
光が一段落ちる場所に立っていた。
袋の中には、小さな箱が入っている。
赤いリボンも、派手な包装もない。
ただ、きれいに折られた紙に包まれた、
“渡しそびれたままのもの”。
約束は、少し前に消えてしまった。
喧嘩でも、別れ話でもなかった。
ただ、互いの生活がずれて、
連絡の頻度が減り、
気づいたときには「今年も、もう終わるね」と言える関係ではなくなっていた。
それでも、
この日が来る前に用意してしまった。
――馬鹿だな、と彼女は思う。
でも、捨てられなかった。
ツリーの灯りを見上げていると、
ふと、鈴の音がした。
リン、というより、
コト、と小さく転がるような音。
振り返っても、そこには誰もいない。
子どもも、サンタの格好をした人もいない。
ただ、足元に、ひとつだけ小さな鈴が落ちていた。
銀色で、くすんでいて、
どこか古い。
拾い上げると、不思議なことに冷たくなかった。
むしろ、ほんのりと、手のひらの温度に寄り添ってくる。
「……落とし物?」
誰に向けるでもなく呟いた瞬間、
胸の奥で、何かがほどけた。
渡せなかった言葉。
言いそびれた「ありがとう」。
ちゃんと伝えなかった「寂しかった」。
それらが、
鈴の中で、音にならないまま揺れている気がした。
彼女は、紙袋から箱を取り出し、
その上に、そっと鈴を置いた。
――今年は、これでいい。
誰かに渡らなくても、
思いが形になったまま残る夜があってもいい。
そう思えた瞬間、
ツリーの灯りが、少しだけやさしく見えた。
家に帰り、コートを脱ぎ、
箱を棚の上に置く。
鈴は、音を鳴らさなかった。
でも、確かにそこにあった。
クリスマスイブは、
奇跡を起こす夜じゃない。
ただ、
“大切だった気持ちが消えていない”と
静かに教えてくれる夜なのかもしれない。
彼女はカーテンを閉め、
明かりを少し落として、
温かい飲み物を手に取った。
窓の外では、
まだ街が、少しだけ嘘をついて光っていた。
