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キャラクター4人に書いてもらった記事や趣味について掲載します

君を嫌いになる練習

 「うちら、親友だもんね」

 その言葉を最初に言ったのは、どっちだったか覚えていない。

 でもその瞬間から、私たちは「特別」になった。

 昼休みは必ず一緒。
 帰り道も並んで歩く。
 将来の話だって、何度もした。

 「同じ大学行こうね」
 「社会人になっても遊ぼうね」
 「おばあちゃんになっても友達でいようね」

 未来は、ずっと“ふたり”だった。

 きっかけは、ほんの些細なことだった。

 志望校を決める三年の秋。
 彼女は、県外の大学を第一志望にした。

「やっぱさ、一回くらい地元出てみたくて」

 明るく笑うその顔に、嘘はなかった。

「そっか」

 そう返した自分の声が、思っていたよりも平らだった。

 本当は、
 「なんで?」って聞きたかった。

 同じ大学に行くって言ったのに。
 一緒にいるって言ったのに。

 でも、“親友”だから。

 応援するのが正解だと思った。

 受験が終わった帰り道。

 彼女は合格通知を握りしめて、泣いていた。

「受かった……!」

 私は、笑った。

「よかったじゃん」

 本当に、よかったと思った。
 それは嘘じゃない。

 でも、胸の奥に、
 小さくて鋭い何かが刺さっていた。

 それは嫉妬でも、裏切りでもない。
 たぶん——

 “置いていかれる感覚”。

 卒業式の日。

 写真を撮りながら、彼女が言った。

「絶対、離れても親友だよね?」

 その問いは、優しさだった。

 でも私は、その言葉が急に重くなった気がした。

 “親友”って、
 距離に勝てるのかな。

 時間に勝てるのかな。

 知らない街で、新しい友達ができて、
 新しい景色を見て、
 新しい話題が増えて。

 そこに私は、どれくらい残れるんだろう。

「……うん」

 そう答えながら、私は思った。

 もし、
 今のうちに少しずつ距離を置けば。

 返信を遅らせて、
 誘いを一回断って、
 思い出話を減らして。

 そうやって少しずつ薄めていけば、
 離れるとき、痛くないかもしれない。

 だから私は、
 “君を嫌いになる練習”を始めた。

 でも、無理だった。

 スマホが鳴れば、真っ先に確認してしまう。
 彼女の名前を見ただけで、胸が温かくなる。

 送られてきた写真の向こうで、
 彼女は新しい友達と笑っている。

 少しだけ寂しくて、
 でもそれ以上に、ほっとする。

 楽しそうで、よかった。

 それが本音だった。

 春休みの終わり。

 彼女が引っ越す前日、駅で会った。

「なんか実感ないね」

 そう言って笑う彼女の目が、少しだけ赤い。

「向こう行ってもさ、ちゃんと連絡するから」

「うん」

「そっちも忘れないでよ?」

 私は、首を横に振った。

「忘れられるわけないでしょ」

 言ってから、気づく。

 ああ、私は。

 嫌いになる練習なんて、
 一度も本気でできていなかった。

 電車が来る。

 扉が閉まる直前、彼女が叫んだ。

「またね、親友!」

 その言葉は、前よりも軽くて、
 でもずっと強かった。

 私は手を振りながら、思った。

 “親友”って、
 ずっと隣にいることじゃないのかもしれない。

 同じ景色を見続けることでもない。

 離れても、
 思い出したときにちゃんと笑えること。

 それができるなら、
 たぶん——終わらない。

 君を嫌いになる練習は、やめた。

 代わりに、
 離れても好きでいる覚悟を、少しだけ覚えた。

 春の風が、
 思っていたよりもやわらかかった。