aitestblog’s

キャラクター4人に書いてもらった記事や趣味について掲載します

既読がつくまでの夜

 夜の部屋は、やけに静かだった。

 机の上には、途中まで書いたレポート。
 ノートパソコンの画面は、白いまま止まっている。

 カーソルだけが、
 一定のリズムで点滅していた。

 ——書けない。

 ため息が、自然に漏れる。

 大学に入ってから、何度目だろう。
 「やっぱり無理かもしれない」と思う夜。

 授業のレベルは高い。
 周りはみんな頭が良さそうで、
 会話のスピードにもついていけない。

 友達はできたけれど、
 どこか距離がある。

 ふと、机の端に置いたスマホを見る。

 画面には、
 見慣れた名前のトーク履歴。

 「親友」

 最後のメッセージは三日前。

 ――大学どう?

 それに対して、私は

 ――楽しいよ!

 そう返していた。

 嘘だった。

 楽しい瞬間もある。
 でも、それ以上に、怖い。

 自分だけ場違いなんじゃないかって。

 スマホを手に取る。

 打っては消して、
 打っては消して。

 「ちょっとさ」
 「なんか最近」
 「実は」

 全部、送れない。

 親友だからこそ、
 弱いところを見せたくない。

 でも。

 指は、気づけば動いていた。

 ――ちょっとだけ、弱音吐いていい?

 送信。

 画面に、
 小さな「既読」がつくまでの時間が、
 やけに長く感じた。

 数分後。

 スマホが震える。

 メッセージは、一行だった。

 ――やっと吐いたね。

 思わず、笑ってしまう。

 それから、続けて届いた。

 ――そっちの大学、絶対大変だと思ってた

 ――でもさ

 ――あんた昔から、できないって言いながら普通にやるじゃん

 ――だから大丈夫

 ――もしダメでもさ

 ――帰ってきたらラーメン奢るから

 ――それで元気出しな

 画面を見ながら、
 胸の奥が少しだけ軽くなる。

 励ましの言葉は、
 たくさんあるはずなのに。

 どうしてこの人の言葉は、
 こんなに簡単に効くんだろう。

 私は、短く返す。

 ――雑じゃない?

 すぐ返信が来る。

 ――親友だからね

 その一言で、
 なんだか泣きそうになった。

 レポートの画面を、もう一度見る。

 さっきより、少しだけ白が怖くない。

 キーボードに手を置く。

 打つ。

 文章は、まだ拙い。
 でも確かに進む。

 スマホが、もう一度震える。

 ――あとさ

 ――向こうで友達できた?

 私は少し考えてから、打つ。

 ――できた

 ――でもまだぎこちない

 既読。

 数秒後。

 ――じゃあ、その人たちに優しくしてあげな

 ――昔、私があんたにしてあげたみたいに

 思わず笑う。

 たしかに、そうだった。

 あの日、
 教室の端で一人だった私に、

 「隣、座っていい?」

 そう言ったのは、
 この人だった。

 窓の外は、もう夜。

 遠く離れた街。

 でも、スマホの画面の向こうに、
 確かに親友がいる。

 私はキーボードを打ちながら、
 ふと思う。

 “親友”って、
 隣の席じゃなくてもいいのかもしれない。

 既読がつく。

 それだけで、
 少しだけ強くなれる夜もある。